ボーイズグループのMV制作で気をつけること

メンバー各位の性格や性質を見極める

アドリブ派か段取り派か、自我の量、緊張しい、指示の量の希望など



「この人にはどんな癖があるんだろう」というのを早めに見極めて、それに合った演出をする

ボーイズグループのMVで気をつけたいことは、メンバー各位の性格や性質を見極めることです。ガールズグループでも似たような部分はあると思うんですが、前提としてわたしが撮影するボーイズグループは「これから芸能界の星を目指していく」というスタンスのグループが多く、撮りながら「自分の見せ方を自分で見つけていく」という雰囲気の方との仕事が多いです。そういった際、ボーイズグループの方のほうが自我が残っている方が多い印象があるんですよ。ガールズグループの場合は自分の思い描くアイドル像を目指す方が多く、あまりそこに迷いが生じないんです。ただ、男性グループの場合は皆が求めていることと自分のしたいことが少しだけ乖離していたり、格好つけようとする自分を客観的に見てしまい、自我が残っている方がしばしばいらっしゃるんですよね。また、歌詞を自分で書く方も少ないため、「こういう風に歌うんだよ」と渡されて演じている状態なので、歌いながら目が泳いでしまったり、瞬きが多くなってしまったりするんです。そういうとき、「この人にはどんな癖があるんだろう」というのを早めに見極めて、それに合った演出をすることが大事です。指示の量に関しても、5〜6人のメンバーがいるとしたら多種多様で、かなり具体的に言ってほしい方もいれば、ある程度泳がせてほしいという方もいて、そういったバランスを見極めることも重要です。



中性的な表現及び演出

ワイルドとビューティー、クールとキュートといった二面性



女性、男性両方の視点から憧れられる見え方に

男性のバンドを撮影する場合であれば、肌がツルっとしていなくとも、汗が滴っていたとしても、そこが男性的で格好良かったりしますよね。ただ、ボーイズグループの場合はそれに加えて、美しさやたおやかさといった中性的な表現も重要で、ワイルドとビューティー、クールとキュートといった二面性が必要になってくると考えています。もちろん中性的な部分だけになってしまうと、それはそれで線が細い感じになり過ぎてしまうので、女性、男性両方の視点から憧れられる見え方になるのが理想だと考えながら制作しています。



全員が仲間として輪の中にいるようにする

全員が持ち回りの主人公になる、同時にバイプレイヤーでもある



何人かが輪の外にいる雰囲気を引きの画で見ると視聴者は気になってしまう

そして、全員が持ち回りの主人公であると同時に、名脇役でもあることを意識しています。男性同士って、基本的にあまりベタベタしないじゃないですか。だからこそ、本人の感覚に任せてしまうと、全員で仲良くやっているシーンを撮る際などで、自然に輪から外れてしまっている場合があるんですよね。そういった輪の外にいる雰囲気を引きの画で見ると、視聴者は結構気になってしまうんです。なので、カメラ外で充分に仲が良かったとしても、「自分でもびっくりするくらい仲のいい感じにしてみて」とお伝えして、やっと画で見てちょうどいい仲の良さに見えるようになります。

また、バンドと違って歌うグループには歌割りが存在しているので、各パートごとに主人公として際立たせてあげることを意識しています。加えて、その間後ろにいるメンバーも、主役となるメンバーを引き立たせるためのバイプレイヤーになるような演出を心がけています。






CUBERSのMVに見る演出の多様性

どのような演出を施して彼らをより魅力的に見せていくか

CUBERSとは、「友情・努力・音楽!」をキャッチフレーズに活動する、TAKA、優、春斗、綾介、末吉9太郎の5人によるボーイズユニットです。惜しまれながらも昨年の3月に解散してしまったんですが、わたしにとって初めてMVを制作したボーイズグループでもあり、結成初期から6本のMVを制作させていただきました。

ここからは、わたしが制作した彼らのMVを作例にしながら、楽曲ごとにどのような演出を施して彼らをより魅力的に見せる映像を制作したのかを解説していきます。



MVの作例と演出のポイント

『BiBiBi』

演出のポイント:主観デートもののメリットを利用



共同生活をするシチュエーションの主観MV。メンバーの好きなことを事前にヒアリングし、取り入れることで自然な雰囲気を演出。




『Samenaide』

演出のポイント:音楽性の高さを示す意図



音楽性を全面に押し出したMV。バックにミュージシャンをいれ、ステージでのパフォーマンスを重視した映像に仕上げた。




『Forever』

演出のポイント:ドキュメンタリー的なアプローチ



リップシンクとダンスだけではありきたりなため、ゴミ拾いのアイデアを加え、ドキュメンタリー風に工夫した演出に。




『Yeah!僕らは変わらない』

演出のポイント:コロナ禍でもできる工夫



コロナ禍に制作されたMV。分割された画面越しに関わり合う演出を行い、それぞれの画が繋がっているようなアクションを取り入れた。







『Add Love Song』




CUBERSファンの皆さんが列席して「お疲れ様、ありがとう」と言えるような映像を

『Add Love Song』のMVは、CUBERSの解散がいよいよ決定し、「最終シングルとして銘打たれた状態でMVを作りましょう」という依頼から制作した映像になっています。グループの解散自体はかなり前から告知されていたので、いわゆるフェアウェル期間のようなものが存在していました。つまり、ファンからしても突然の終わりという状態ではなく助走期間があったので、いっそのことMVを卒業式の形にしてメンバーが卒業証書をもらい、ファンの皆さんが列席して「お疲れ様、ありがとう」と言えるような映像にすることができるのではと考えたんです。それで、実際にファンの方々にも告知して卒業式を開催してみました。ドキュメンタリーにし過ぎてしまうとただ卒業証書を渡して終わってしまうので、要所要所でMVらしいリップシンクなどはしっかりと残しつつ制作していきました。

また、グループの歴史を感じられるような演出を入れたかったので、最初期の映像を各メンバーがステージを降りてきてスクリーンで見返すような演出を、卒業式中の演目のひとつとして見せています。

上記のような内容を字コンテに全てまとめています。字コンテは、絵コンテ代わりにどのMVでも基本的に用意しており、曲の構成や歌詞に合わせて「どのタイミングでどういうことが起こるか」を事前に記載したものになっています。


演出のポイント:ファンが列席する卒業式のMV




演出のポイント:リップシンクも大切に残す




演出のポイント:グループの歴史を感じられる演出




字コンテと映像の比較



ホール後部のドアから5人が入場。歩きながらのリップシンクは字コンテの通り採用された。



実際の現場では、コンテのタイミングで着席できなかったため、若干後ろ倒しに変更されている。





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ピアノを壇上で弾く演出は面白さが勝ってしまいそうだったため、エモさを失わせてまでやることではないと判断し採用しなかった。このように現場で演出を変更することもある。





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CUBERS結成から今に至るまでの映像を編集したものをスクリーンに映し、ステージから降りてきたメンバー5人が見るというグループの歴史を感じさせる演出。字コンテ段階では他の案もあったが、9年分の思い出には勝らず3サビ途中まで映像を見続ける演出に変更された。





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歌い終わりからメンバーが退場していくラストシーン。「何かの役に立つかもしれないと思って言うんですが、実はここだけ反省点がひとつあるんです。エキストラの方々に先頭を歩くメンバーを顔で追うように指示を出していなかったので、皆さん5人目までちゃんと見送ってしまって、前を歩くメンバーに視線が行かない画になってしまっているんですよね(05:05〜)。ファンの匿名性を保つという意味では成功なんですが…(笑)」と加藤さん。







加藤マニ流・演出の考え方

皆さんが自然に醸し出すものが本質的に重要で結局はそれ自体がわたしの演出なんです。

演出については、基本的にできないことはさせないようにしています。ただ、例えばアクションを取り入れたくて、演者本人にそれが難しい場合などは、その演者に似ている人を事前に用意するようにしています。事前に代役を用意できない場合は、1カットずつ細かく割っていき最終的に近しい結果になればいいと考えているので、そこまでの道のりを自分の中で何通りか用意しておくなど、何かできないことがあっても問題がないようにしています。

また、真に重要な部分以外はおおらかに考えることが大事で、動きの繋がりよりも表情のほうが重要なんですよね。様々な段取りがある中で結局全てを長回しで使うことはあまりないため、いいところさえOKであれば他の部分が少し違っていても気にせずに使うことが多いです。

現場においては、演じやすい空気を作ることも大切です。ただ、ある程度いい感じに演じてくれたときに「めちゃくちゃ良かったです!」と大袈裟に褒めてしまうことで、かえって居心地が悪くなってしまう場合もあるので、自分の思っている感情よりも過剰に褒めないほうがいいんじゃないかなと。逆に、「これはNGかな?」というときは「今のはキープで、もう一回やりましょう!」と言うようにするなど、本人たちのやりやすい範囲内になるようポジティブなバイブスを作りたいと常に考えています。あとは、時間が経ってくると皆疲れてきてピリピリしてくるんですよね。すると、集中力が途切れて近場からは怒号が聞こえてくることもあります。そうなったときは、あえてふざけることで場の空気を和ませたりすることもあります。

また、本来やろうとしていたけれど、それを諦める際、演者やスタッフにばれないよう、「ここまでのいいところを使うので、次に行きましょう!」とこっそり諦めるようにしています。そして、わたしと関わる人たちには最終的に楽しかったという気持ちで帰ってほしいという想いでやっていて、結局はそれ自体がわたしの演出なんです。皆さんが自然に醸し出すものこそが本質的に重要なので、「ちょっと違うかも」という部分だけを修正しつつ、チューニングをして次に進んでいくという演出の仕方をいつもしている気がします。



加藤さんが気をつけている6つのこと




今後の取り組みと展開

一生思い出に残るような映像を

もう一度 「こんなの見たことない」に 挑戦したいと最近思うようになった

今後の作品も、予算の大小を問わず「お金を払って良かったな」という気持ちにさせることを大事にしていきたいです。仮に低予算だったとしても、ちょっとだけ魔法をかけてあげるような感覚で制作をしていきたいですね。

また、先のCUBERSはすでに解散してしまいましたが、同じ事務所の弟分グループとの仕事で近しい演出をブラッシュアップしたものを試してみたりと、今まで作ってきたものや、やってきたことは受け継がれていきます。制作スタッフもノウハウが溜まっていくので、やってきたことは無駄にならないんですよ。そういう意味では、ボーイズグループの取り組みは先輩後輩が存在している分、受け継がれていく点がすごくいいなと思っています。

ちなみに、再生回数は気にし過ぎないようにしたいけれど、無視はしていません。やっていること自体はいいことなのに、昨今だとなかなか100万再生まで辿り着けないという悩みもあります。とはいえ、その映像が見た人の心に残るものであれば、それは同じくらい素晴らしいことだと考えています。大多数の方に受け入れられることももちろん素敵ですが、「自分のために作られたのかもしれない」と思ってもらえるような映像や、一生思い出に残るような映像を作ることもやっぱり大切だと思いますね。

自分の今後についてですが、もう一度「こんなの見たことない」に挑戦したいと最近になって思うようになりました。どうしても最大公約数というか、 あったものの組み合わせで「こうしたら美味しいものができるだろう」という作り方をしがちなんですよね。10年くらい前の自分のほうが、「こんなこと誰もやってないじゃん」ということをたくさんやっていた気がするので、今年で40歳になりますがビビらずにもっと冒険してみたいなと思っています。